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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)75号 判決

原告

技研トレーデイング株式会社

被告

特許庁長官

右当事者間の昭和60年(行ケ)第75号審決(特許出願拒絶査定不服審判の審決)取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和60年3月1日、同庁昭和59年審判第4631号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第2請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和52年11月1日、発明の名称を「通過人数の計数方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願昭52―131852号)をし、昭和57年12月15日出願公告されたが、特許異議の申立てがなされ、昭和58年12月17日拒絶査定を受けたので、昭和59年3月21日これに対する不服の審判を請求したところ、昭和59年審判第4631号事件として審理された結果、昭和60年3月1日、本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年4月4日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

1 広巾の出入口又は通路の天井の下方において送光器から出た光束と受光器の光の進入経路とが立つた状態の大人の肩部から頭部において交差するように出入口又は通路の上方に送光器と受光器を一対として、これを複数対横に並べて設置し、送光器から出た光束と受光器の光の進入経路の延長路とが交差する該交差部に通過する大人の肩部又は頭部が来ると送光器と受光器間に光のループが形成されるようにし、これを信号として取り出し、カウントすることを特徴とする通過人数の計数方法。(別紙図面(1)参照)

2 広巾の出入口又は通路の天井の下方において送光器から出た光束と受光器の光の進入経路とが立つた状態の大人の肩部から頭部において交差するように出入口又は通路の上方に送光器と受光器を一対として、これを複数対横に並べ且つ前後二列に設置し、送光器から出た光束と受光器の光の進入経路の延長路とが交差する該交差部に通過する大人の肩部又は頭部が来ると送光器と受光器間に光のループが形成されるようにし、これを信号として取り出し、出入口又は通路の外部から見て前列の送光器と受光器間に、引続いて後列の送光器と受光器間に光のループが形成された時に入場者としてカウントし、出入口又は通路の内部から見て前列の送光器と受光器間に、引続いて後列の送光器と受光器間に光のループが形成された時に退場者としてカウントすることを特徴とする通過人数の計数方法。

3  本件審決理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりと認められるところ、実公昭42―4262号実用新案公報(以下「第1引用例」という。)には、通路の天井に送光器と受光器とを設け、送光器から放射する細い光束と受光器の受光可能な細い視野とを交差させ、この交差部を一定高さに設定しておくことにより、一定高さ以上の通過物体がこの交差部に入つたとき、通過物体からの反射光を受光器で受光して、この通過物体を検出する装置が示されている。(別紙図面(2)参照)

そこで、本願発明のうち特許請求の範囲の第1番目に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)と第1引用例記載の技術内容とを対比して検討すると、通路の天井に送光器と受光器とを対にして設置し、送光器から放射された光束と受光器の視野とを一定高さで交差させ、一定高さ以上の通過物体を検出するという点で、両者は、基本的な技術的思想が同じであり、第1引用例記載の装置においては、通路の天井に送光器と受光器を一対設置しているのに対し、本願第1発明においては、送光器と受光器とを対にし、これを複数対横に並べて設置して、広幅の通路又は出入口でも通過人数を計数し得るようにした点で一応の相違が認められる。しかし、検出領域が幅広く、一対の検出装置によつては全領域の検出ができない場合、複数対の検出装置を並べて全領域の検出を行う程度のことは、例えば、特開昭52―51897号公開特許公報(以下「第2引用例」という。)に示されているように(別紙図面(3)参照)、複数車線を走行する車両の計数器などの分野において従来より周知のことであるから、前記相違点は、当業者の常識をもつて適宜なし得る程度のことであつて、格別の創意工夫を要したものとは認められない。

したがつて、本願第1発明は、第1引用例記載の技術内容に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。なお、右のとおりであるから、本願発明の特許出願は、特許請求の範囲の第2番目に記載された発明(以下「本願第2発明」という。)について審理するまでもなく、拒絶すべきものである。

4  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、本願第1発明と第1引用例及び第2引用例記載の技術との相違点を看過した結果、本願第1発明をもつて第1引用例及び第2引用例記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと誤つた結論を導いたものであり、また、本願第2発明について審理することなく、本願発明の特許出願は拒絶すべきものとした点において理由不備があるから、違法として取り消されるべきである。すなわち、

1 本件審決は、次に述べるとおり、本願第1発明と第1引用例記載の技術との相違点を看過し、右相違点について判断を遺脱した違法がある。

本件審決は、本願第1発明と第1引用例記載の技術とを対比して、両者は、通路の天井に送光器と受光器とを対にして設置し、一定高さ以上の通過物体を検出するという点で、基本的な技術的思想が同じである旨認定している。しかし、第1引用例記載の技術は、専ら、物体の通過を感知することを目的として、1個の受光器と2個の受光器とを設け、この受光光芒の上下2個所に発光光芒との交錯個所を2個所形成するというものであつて、このように上下2個所に両光芒の交錯個所を形成することにより、「小形態の検出物体は下方低位置の交錯個所で検出され、大形態の検出物体が下方低位置の交錯個所を形成する発光光芒を上方で遮断し下方低位置の交錯個所による検出が不可能となる場合でも、上方高位置の交錯個所で検出することができる。」(甲第3号証の第1頁右欄第16行ないし第21行)、「夫々交錯個所を通過する検出物体の表面形態の状況が変ることが予測されるので微弱な反射光による不動作の確率は極小となり、手押車、寝台、人物等の高低、形態の変移に拘らず検出可能となり叙上の目的を達成できる。」(同号証の第1頁右欄第23行ないし第27行)という効果を奏するものである。これに対し、本願第1発明は、建造物等の出入口を通過する人の計数を目的として、送光器と受光器を一対として設け、前記二項の本願発明の要旨1のとおり、「送光器から出た光束と受光器の光の進入経路とが立つた状態の大人の肩部から頭部において交差するように」し、「送光器から出た光束と受光器の光の進入経路の延長路とが交差する該交差部に通過する大人の肩部又は頭部が来ると送光器と受光器間に光のループが形成されるようにし、これを信号として取り出し、カウントする」というものであつて、このように送光器から出た光束と受光器の光の進入経路とを立つた状態の大人の肩部から頭部までの範囲の高さにおいて交差せしめることにより、単に「送受光器一対を一組として、これを複数組、出入口の上方に床面に向けて設置し、およそ人の肩巾の間隔で横方向に並べ」(甲第2号証の本願発明の特許公報(以下「本件公報」という。)第1頁第2欄第26行ないし第28行)て人を計数する方法の欠点、すなわち、「第1に通過者の身長(例えば大人と子供)にかゝわらず計数する。しかし百貨店やスーパーマーケットのように購買力のある大人だけを計数したい場合もある。さらには通過人数に関係のない手荷物、手押し車や手足の複雑な動きを計数してしまう。もし上記方法によつて一定身長以下の通過者(子供)あるいは手荷物、手押し車等を計数しないようにするためには赤外線の照射強度を加減して一定身長以下の通過者を区別して計数から省くようにしなければならないが、この方法では照射強度を一定に保つことは困難であり、例えば使用中に赤外ランプに埃が堆積して照射強度が変るため絶えず調整をしなければならないという欠点」(本件公報第1頁第2欄第31行ないし第2頁第3欄第7行)を除去し、「検出器から被検出物までの距離を正確に設定できるようにし、目的距離外の対象物の通過に対しては反応しないようにし、身長の大小による選別、即ち大人のみを計数の対象とし、子供、手荷物、手押し車等を係数の対象外とするとともに百貨店等の混雑する広巾の出入口又は通路においても、そこを通過する人数を正確に計数する」(本件公報第2頁第3欄第9行ないし第16行)という効果を奏するものである。以上によつて明らかなとおり、第1引用例記載の技術は、計数を目的とすることなく、専ら物体の通過を感知することを目的として、1個の送光器と2個の受光器を組み合わせ、光芒の交錯個所を上下2個所に形成することにより、通過物体の高低、大小のいかんを問わず無差別にこれを検出するものであるのに対し、本願第1発明は、ある範囲の通過人数の計数を目的として、一対の受光器と発光器を組み合わせ、光芒の交錯個所を立つた状態の大人の肩部から頭部までの範囲の高さに形成することにより、通過物体のうち子供、手荷物、手押し車等を除外し、専ら一定の範囲の高さの通過物体のみを選択的に検出するものであつて、両者は、その目的の相違からして構成及び効果において相違し、その技術的思想を異にするものである。しかるに、本件審決は、右相違点を看過し、この点について何ら判断をすることなく、結論を導いたものであつて、右相違点の看過が本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この点に関して、被告は、第1引用例記載の発明は、1つの物体検出可能域を形成することを前提としているものと考えられ、しかも、第1引用例記載の発明においては、2つの送光器のうち、いずれか一方の送光器を取り除いて物体検出可能域を一個所にしても、動作しないという理由はなく、十分に動作することは明らかである旨主張するが、被告の右主張は、技術的思想として第1引用例に開示されていない事項を主張するものにほかならない。すなわち、第1引用例記載の技術は、前述のとおり、計数を目的とすることなく、専ら物体の通過を感知することを目的として、通過物体の高低、大小のいかんを問わず無差別にこれを検出しようとするものであつて、1つの物体検出可能域を形成することは全く予想しておらず、そもそもいずれか一方の送光器を取り除いて物体検出可能域を1個所にするという技術的思想を否定するところに成り立つているのに対し、本願第1発明は、ある範囲の通過人数の計数を目的として、専ら一定の高さ以上の通過物体のみを選択的に検出しようとするものであるから、両者は、明らかに技術的思想を異にするものである。また、被告は、乙第1号証を挙示して、1つの送光器と1つの受光器とを対にして設置し、1つの物体検出可能域を形成することは周知である旨主張するが、本件審決は、乙第1号証を引用しておらず、また、同号証記載の技術の存在を示唆することもしていないから、問題は、第1引用例にいかなる技術が開示されているかであるところ、第1引用例記載の技術は、いずれか一方の送光器を取り除いて物体検出可能域を1個所にするという技術的思想を否定するところに成り立つていることは、前述のとおりであり、更に、このことは、仮に乙第1号証の記載を参酌しても変りがない。

2 本件審決は、次に述べるとおり、本願第1発明と第2引用例に示されているような複数車線を走行する車両の計数器の分野における技術との相違を看過して、送光器と受光器とを一対として、これを複数対横に並べて設置し、広幅の通路又は出入口においても通過人数を計数し得るようにした本願第1発明の構成は、格別の創意工夫を要したものとは認められない旨の誤つた認定をした違法がある。

本件審決は、本願第1発明と第1引用例記載の技術との間において、第1引用例記載の技術では、通路の天井に送光器と受光器を一対設置しているのに対し、本願第1発明では、送光器と受光器とを対にし、これを複数対横に並べて設置して、広幅の通路又は出入口でも通過人数を計数し得るようにした点で一応の相違があることを認めながら、検出領域が幅広く、一対の検出装置によつては全領域の検出ができない場合、複数対の検出装置を並べて全領域の検出を行う程度のことは、例えば、第2引用例に示されているように、複数車線を走行する車両の計数器などの分野において従来より周知のことであるから、前記相違点は、当業者の常識をもつて適宜なし得る程度のことであつて、格別の創意工夫を要したものとは認められない旨認定している。しかし、第2引用例に示されているような複数車線を走行する車両の計数器の分野においては、計数の対象は、車線を走行する車両であることはいうまでもないところ、車両は、原則として一車線につき一列になつて走行するものであつて、一車線につき数列になつて走行することは通常あり得ないから、走行車両の計数器又は探知器の分野においては、一車線ごとにそれぞれ1個の計数器又は探知器を設ければ足り、複数個設けるといつても、それは車線が複数個存在するからにすぎず、1個の車線に数個の計数器を配列するものではなく、第2引用例記載の技術も、この範囲を出るものではない。すなわち、1個の車線は1個の通路に相当するものとみた場合、走行車両の計数器の分野においては、本願発明の特許出願前、1個の通路に1個の計数器を設けるという技術的思想は存在していたとしても、1個の通路に複数個の計数器を設けるという技術的思想は、全く存在していなかつたものである。これに対し、本願第1発明は、建造物等の出入口を通過する人の計数方法に関するものであるところ、この場合には、1個の通路を通過する人は必ずしも一列をなすものとは限らず、従来技術のように、「光線が床と水平になるように送受光器を設置し、この光線が通過者によつて遮断される回数をもつて入場者とする」(本件公報第1頁第2欄第18行ないし第20行)方法では、「左右に二人以上並んで歩く時、これを一人としか計数しないため、百貨店等の混雑する入口では計数誤差が大きく利用できなかつた。」(本件公報第1頁第2欄第21行ないし第24行)という欠点があつたので、本願第1発明は、この欠点を解消するため、「送受光器一対を一組として、これを複数組、出入口の上方に床面に向けて設置し、およそ人の肩巾の間隔で横方向に並べ、左右に二人以上並んで歩かれても、それぞれの人を計数できるように」(本件公報第1頁第2欄第26行ないし第29行)し、「百貨店等の混雑する広巾の出入口又は通路においても、そこを通過する人数を正確に計数することができ」(本件公報第3頁第6欄第9行ないし第11行)るという効果を奏するものであつて、これを要するに、1個の通路に複数個の計数器を設け、これにより、数列をなし、又は列をなすことなく雑然と1個の通路を通過する人数を計数しようというものにほかならない。以上のとおり、複数車線を走行する車両の計数器の分野における技術と本願第1発明とでは、技術を適用する場の状況を異にし、したがつてまた、前述のとおり技術的思想も相違するものであつて、1個の通路に複数個の計数器を設けるという技術的思想を全く欠如している第2引用例記載の技術から1個の通路に複数個の計数器を設けるという本願第1発明の構成に想到することは、当業者であつても、容易になし得ることではないというべきである。しかるに、本件審決は、右相違点を看過し、前述のとおり認定したものであつて、その認定は、明らかに誤つている。この点に関して、被告は、複数車線の道路において、車両が走行中に車線変更や追越しを行うときに、2つの車線をまたがつて走行することにみられるように、1つの車線は、必ずしも1つの道路に相当するものではない旨主張するが、右のような事態はむしろ例外にすぎず、車両は、一車線につき一列になつて走行するのが原則であることはいうまでもなく、第2引用例記載の技術も、この原則を前提として、「二車線の道路を走行する車両を検知するために、車線ごとに車両検出器がそれぞれ設置される。」(甲第4号証の第2引用例の第2頁左上欄第8行及び第9行)とするものであり、ただ、このような設置構成を採る結果、被告が主張するような異常な事態が例外的に発生することによつて生じる車両検知器の二重検知を防止しようとするものにほかならないから、第2引用例には、1個の通路に1個の計数器を設けるという技術的思想のみが開示されているにすぎないものというべきである。

3 本件審決は、次に述べるとおり、本願第2発明について審理するまでもなく、本願発明の特許出願は拒絶すべきものとした点において理由不備の違法がある。

本願発明の特許請求の範囲には、本願第1発明及び本願第2発明が記載されているところ、本件審決は、本願発明の特許出願は、本願第2発明について審理するまでもなく、拒絶すべきものである旨判断している。しかし、本願第1発明と本願第2発明とは同一でないことはいうまでもないところ、本願第2発明は、本願第1発明の構成に対して、送光器と受光器との対を前後二列に設置し、出入口又は通路の外部から見て前列の送光器と受光器間に、引き続いて後列の送光器と受光器間に光のループが形成された時に入場者としてカウントし、出入口又は通路の内部から見て前列の送光器と受光器間に、引き続いて後列の送光器と受光器間に光のループが形成された時に退場者としてカウントするという構成を付加したものであるから、本願第1発明が拒絶すべきものであるとしても、当然に本願第2発明についても拒絶すべきであるということにはならない。特許法第157条第2項第4号の規定が審決をする場合には審決書に理由を記載すべき旨定めている趣旨は、審判官の判断の慎重、合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること、当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること、及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあるというべきであり、したがつて、審決書に記載すべき理由としては、当業者の技術上の常識又は技術水準とされる事実などこれらの者にとつて顕著な事実について判断を示す場合であるなど特段の事由がない限り、審判における最終的な判断として、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。してみると、本件審決の前記判断は、明らかに理由不備であることを免れないものというべきである。もつとも、特許法第38条ただし書に基づく、いわゆる併合出願に係る2以上の発明のうち1の発明について拒絶理由があれば、出願全部について拒絶査定をするのが特許庁の実務であり、また、右の併合出願の場合には、その複数の発明が一体となつた1個の出願と解すべきものであるから、これに対する特許法上の処分は、特段の規定がない限り、1個のものでなければならないということを理由として、特許庁の右実務を支持する裁判例(東京高裁昭和52年12月23日判決・「特許と企業」110号23頁、昭和54年3月22日判決・「特許と企業」125号15頁)もあり、本件審決の前記判断は、特許庁の右実務上の取扱いに基づくものと思われる。しかし、特許法第38条ただし書所定のいわゆる併合出願について、その複数の発明が一体となつた1個の出願として把握すべきものとする解釈に明確かつ合理的な根拠があるとは必ずしもいうことができない。前記東京高裁昭和52年12月23日判決の理由中にも述べられているとおり、この併合出願の審査において、2以上の発明のうちの1発明について拒絶理由がある場合、どのように処理すべきかについては直接これに関する規定はなく、また、右判決も、複数の発明が一体となつた1個の出願と解すべきものというだけで、そのように解すべき具体的な根拠については触れていない。ただ、右判決は、拒絶すべき発明を除いた残余の発明について併合出願が存続するものと解するならば、併合された2以上の発明相互間に特許法第38条ただし書各号の関連性のない場合には、個々の発明については他の拒絶理由がなくとも、同条違反として併合出願全部が拒絶されることと均衡を失するということを根拠として挙げているが、拒絶すべき発明を除いた結果、残余の発明相互間に特許法第38条ただし書所定の併合要件が欠如するに至る場合には、当該出願全部を併合要件の欠如を理由に拒絶すればよく、また、逆に拒絶すべき発明を除いてもなお残余の発明相互間に併合要件の充足が認められる場合、又は本願発明の特許出願のように、2個の発明について併合出願がなされ、そのうち1個の発明を拒絶すべきものとしたときは、残余の発明についてそもそも併合要件の充足を問題とする余地はなく、その場合には特許査定をすればよいのであるから、併合出願について、その複数の発明が一体となつた1個の出願と解さなくとも、特許法第49条第3号の規定と何ら均衡を失するものではない。むしろ、特許法第123条第1項柱書き後段には、特許請求の範囲が2以上の発明に係るものについては、発明ごとに特許無効の審判を請求することができる旨規定されており、また、同法第185条には、「特許請求の範囲に記載された2以上の発明に係るものについての特則」の見出しのもとに、発明ごとに特許がなされ、あるいは特許権があるものとみなされる場合が列挙されていることを参酌すれば、これらの規定が直接には特許権の法律上の取扱いを定めたものであるとしても、出願手続中の取扱いをこれと異なるものと解するには、やはり明確かつ合理的な根拠を要するものというべきであり、このような根拠なくして、単に右規定は特許後の法律上の取扱いを定めたという理由だけで、出願手続中の取扱いを別異に解することは、首尾一貫せず、均衡を失するものともいえよう。このようにみてくると、前記判決の解釈は、併合出願された他の発明について拒絶理由がないのに、その発明に関する限り、権利保護の機会が奪われるという重大な結果を招来するものであるにしては、その根拠は極めて薄弱であるといわざるを得ない。なお、前記判決は、分割出願の可能性をいうが、出願人としては、特許庁審査官の拒絶理由通知及び拒絶査定を不当と考える場合が多く、その結果、分割出願の機会を失することもないではなく、この危険を専ら出願人に負担せしめるべきものとすることは、妥当とは思われない。そこで、あらためて特許法の規定をみるに、特許法第38条本文は、「特許出願は、発明ごとにしなければならない。」旨規定しているところ、この規定の趣旨は、必ずしも明確ではないが、同法第36条に、「特許出願」の見出しのもとに、特許を受けようとする者は、所定事項を記載した願書を特許庁長官に提出すべきこと、並びに願書には所定事項を記載した明細書及び必要な図面を添付すべきことが記載されていることを併せ参酌すると、同法第38条本文は、複数の発明については、その数に等しい数の特許出願をなすべきこと、及び各特許出願ごとに別個に願書を提出すべきことを規定したものと解される。すなわち、特許法第38条本文は、旧々特許法(明治42年法律第23号)施行規則第43条の「特許ヲ受ケムトスル者ハ一発明毎ニ一通ノ願書ヲ作リ之ヲ特許局ニ差出スヘシ」という規定(ここでは、願書の数だけが問題とされている。)と異なり、より実体的に発明ごとに特許出願がなされるべきこと、換言すれば、複数の発明については、これに対応する複数の特許出願が存在すべきことが、まず規定されているものというべきである。これに対し、特許法第38条ただし書は、2以上の発明であつても、特許請求の範囲に記載される1の発明(特定発明)に対し所定の関係を有する発明については、特定発明と同一の「願書」で特許出願をすることができる旨規定している。すなわち、ここでは、専ら形式的、手続的に願書の数だけが問題とされているのである。してみると、特許法第38条ただし書は、同条本文に包含される前記2個の命題のうち、各特許出願ごとに別個の願書を提出すべきものとする形式的、手続的命題のみを、発明相互間に所定の関係があることを条件に緩和したにすぎず、複数の発明については、これに対応する複数の特許出願が存在すべきものとする実体的命題まで否定したものではないというべきであり、換言すると、右ただし書は、各発明間に所定の関係があることを前提に、複数の特許出願を同一の願書でなし得ることを規定したにとどまり、前記東京高裁昭和52年12月23日判決の用語を借用するならば、この場合には、まさに発明の個数に応じた複数の特許出願が客観的に併合されているものと解するのが相当である。しかして、このように解しても、特許法の他の条文と均衡を失するものでもなく、矛盾抵触するものでもないことは、前述のとおりであり、また、このように解するときは、前記特許法第123条第1項柱書き後段及び第185条の規定とも首尾一貫することはいうまでもない。すなわち、併合出願であつても、発明ごとに特許出願が存在するからこそ、発明ごとに特許がなされ、また、特許権があるものとみなされるのである。以上の理由により、本願発明についても、本願第1発明及び本願第2発明につきそれぞれ別個の特許出願が存在するものといわなければならない。したがつて、本件審決が本願第2発明について何ら拒絶理由を示すことなく、本願発明の全部についてその特許出願を拒絶すべきものとしたのは、明らかに理由不備というべきである。この点に関して、被告は、特許査定又は拒絶査定の対象となり得るものは、特許出願それ自体であつて、個々の発明ではないとか、1つの出願のうちの一部分について特許査定をし、残余の部分について拒絶査定をするようなことは認められていないなどと主張するが、原告は、特許査定又は拒絶査定の対象が個々の発明であるとか、1つの特許出願のうちの一部分について特許査定をなすことが可能であるなどと主張するものではなく、特許法第38条ただし書所定の併合出願の場合には、発明の個数に応じた複数の特許出願が客観的に併合されているものと解するのが相当であるから、この場合には、特許査定又は拒絶査定は併合されている個々の特許出願ごとになされるべきものである旨主張するものであり、したがつて、被告の右主張は、何ら原告の主張に対する実質的な反論とはなつていない。

第3被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

1  請求の原因1ないし3の事実は、認める。

2  同4の主張は、争う。本件審決の認定判断は、正当であり、原告主張のような違法の点はない。

1 原告の4項1の主張について

第1引用例記載の技術は、被検出物体の大小あるいは表面の状態による不動作の原因をなくし、確実に検出動作をするように、送光器から出た光束と受光器への光の進入経路との交差個所(物体検出可能域)を、地表面から一定の高さに2個所形成したものであり、換言すると、1つの物体検出可能域によつては検出誤りが生じるので、2つの物体検出可能域を形成したものであつて、第1引用例には明記されてはいないが、本願第1発明のように、1つの物体検出可能域を形成することを前提としているものと考えられる。しかも、第1引用例記載の技術においては、2つの送光器のうち、いずれか一方の送光器を取り除いて物体検出可能域を1個所にしても、動作しないという理由はなく、十分に動作することは明らかである。したがつて、本願第1発明と第1引用例記載の技術とは、通路の天井に送光器と受光器とを対にして設置し、一定高さ以上の通過物体を検出するという点で、基本的な技術的思想が同じであるとした本件審決の認定に原告の主張するような違法の点はない。この点に関して、原告は、第1引用例記載の技術は、物体の通過を感知することを目的とするものであつて、本願第1発明のように通過人数の計数を目的とするものではなく、また、いずれか一方の送光器を取り除いて物体検出可能域を1個所にするという技術的思想を否定するところに成り立つている旨主張するが、本願第1発明も第1引用例記載の技術も、共に物体を正確に検知することを前提とするものであるところ、本願発明の実施例を示す願書添付の図面中第2図に計数手段が何も示されていないこと、及び物体検知時に得た信号によつて計数動作を行うことが周知であること(甲第4号証の第2引用例)から明らかなように、本願第1発明における通過人数の計数には格別の意義があるとは考えられず、また、1つの送光器と1つの受光器とを対にして設置し、1つの物体検出可能域を形成することは、実公昭42―2743号実用新案公報(乙第1号証)に示されているように周知であるから、原告の右主張は、採用する価値のないものである。

2 原告の4項2の主張について

複数車線の道路において、車両が走行中に車線変更や追越しを行うときに、2つの車線をまたがつて走行することにみられるように、1つの車線は、必ずしも1つの通路に相当するものではなく、道路は、車線に関係なく1つの通路と解すべきであるから、第2引用例記載の技術を原告の主張するように解釈するのは妥当ではない。したがつて、検出領域が幅広く、一対の検出装置によつては全領域の検出ができない場合、複数対の検出装置を並べて全領域の検出を行う程度のことは周知であるとした本件審決には、原告の主張するような違法の点はない。この点に関して、原告は、第2引用例には1個の通路に1個の計数器を設けるという技術的思想のみが開示されているにすぎない旨主張するが、第2引用例には、2つの車両をまたがつて走行する車両があつても車両検知器の二重検知動作を防ぐことが記載されているところ、右記載の技術は、車線区分に関係なく通過車両を正確に計数しようとするものであることが明らかであるから、第2引用例記載の技術を1個の通路に複数個の車両検知器を設置するものであると解することに、当業者ならば、何人も疑問を差しはさむ余地のないところである。

3  原告の4項3の主張について

特許法第38条本文は、特許出願は発明ごとにしなければならない旨規定して、1発明1出願が原則であることを定め、また、同条ただし書は、各号に定める併合要件を満たす場合に限り、例外的に複数発明について同一の願書で特許出願をすることができる旨規定して、多発明1出願を定めたものであつて、多出願1願書を定めたものではない。この点に関連する特許法の規定をみてみると、特許法第49条は、特許出願が同条各号に列挙された拒絶理由に該当するときは、その特許出願について拒絶査定をすべき旨規定しており、また、同法第60条は、特許異議の決定をした後、その特許出願について特許査定又は拒絶査定をしなければならない旨規定しており、更に、同法第62条は、特許異議の申立てがなかつたときは、拒絶査定をするものを除き、その特許出願について特許査定をしなければならない旨規定しているところであつて、これらの規定によると、特許査定又は拒絶査定の対象となり得るものは、特許出願それ自体であつて、個々の発明ではない。このように、特許出願は、査定までは出願単位で取り扱うものとされており、発明単位で取り扱うものとはされておらず、また、1つの出願のうちの一部分について特許査定をし、残余の部分について拒絶査定をするというような、2種類の査定をすることを認めておらず、特許出願については、特許査定か拒絶査定のいずれか一方をなし得るだけである。してみると、1つの特許出願について拒絶の理由を発見しない場合だけ特許査定を行い、特許法第49条の規定に列挙された拒絶理由の条文の1つにでも該当する場合には、発明の数に関係なく拒絶査定をしても、違法ではないというべきである。なお、原告の援用する特許法第123条第1項柱書き後段及び第185条は、特許権発生後に関する特則であるところ、このような規定が出願手続に関して存しないということは、出願を発明ごとに取り扱うというようなことが全く考えられていないことを示している。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

(争いのない事実)

1  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

2 原告は、本件審決は、本願第1発明と第1引用例及び第2引用例記載の技術との相違点を看過した結果、本願第1発明をもつて第1引用例及び第2引用例記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとの誤つた結論を導いたものであり、また、本願第2発明について審理することなく、本願発明の特許出願は拒絶すべきものとした点において理由不備がある旨主張するが、以下に説示するとおり、原告の主張は、理由がないものというべきである。

1  前記本願第1発明の要旨に成立に争いのない甲第2号証(本件公報)を総合すると、(1)本願第1発明は、建造物等の出入口を通過する人の計数方法に関するものであるところ、従来、建造物等の出入口を通過して入場する人の数を計数する方法として、光線が床と水平になるように送受光器を設置し、この光線が通過者によつて遮断される回数をもつて入場者数とするものがあつたが、この方法では、左右に二人以上が並んで歩くとき、これを一人としか計数しないため、百貨店等の混雑する入口では係数誤差が大きく利用することができないという欠点があり、この欠点を解消する方法としては、送受光器一対を一組として、その複数組を、出入口の上方に床面に向けて設置し、人の肩幅の間隔で横方向に並べ、左右に二人以上並んで歩かれても、各人を計数することができるようにすることも考えられるけれども、この方法によると、百貨店やスーパーマーケットにおいて購買力のある大人だけを計数したい場合でも、通過者の身長(例えば、大人と子供)にかかわらず計数し、また、通過人数に関係のない手荷物、手押し車や手足の複雑な動きを計数してしまうので、もしも、前記方法によつて一定身長以下の通過者(子供)あるいは手荷物、手押し車等を計数しないようにするためには、赤外線の照射強度を加減して、一定身長以下の通過者等を区別して計数から省くようにしなければならないが、この方法では、照射強度を一定に保つことが困難であり、例えば、使用中の赤外ランプに埃が堆積して照射強度が変わるため、絶えず調整をしなければならないという欠点があること、(2)本願第1発明は、前記従来方法の欠点を除去するため、検出器から被検出物までの距離を正確に設定することができるようにし、目的距離外の対象物の通過に対しては反応しないようにし、身長の大小による選別、すなわち、大人のみを計数の対象とし、子供、手荷物、手押し車等を計数の対象外とするとともに、百貨店等の混雑する広幅の出入口又は通路においても、そこを通過する人数を正確に計数することを目的として、本願第1発明の要旨のとおりの構成を採用し、これにより、初期の目的を達成したものであることが認められる。他方、成立に争いのない甲第3号証(第1引用例)によれば、第1引用例は、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された実用新案公報であつて(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、第1引用例記載の技術は、(1)筐体1に1個の受光器2と2個の発光器3とを設け、この受光光芒bの上下2個所に発光光芒aとの交錯個所cを2個所形成し、この両交錯個所c間を含む区域を物体検出可能域とすることを特徴とする光継電器(実用新案登録請求の範囲の記載)であつて、その目的は、検出物体の大小あるいは表面の状態による不動作の原因をなくし、確実に検出するようにしたものであること、(2)叙上の構成としたことにより、1つの受光光芒に対し2つ(複数)の発光光芒により上下2個所に両光芒の交錯個所が形成されるから、小形態の検出物体は、下方低位置の交錯個所で検出され、大形態の検出物体が下方低位置の交錯個所を形成する発光光芒を上方で遮断し、下方低位置の交錯個所による検出が不可能となる場合でも、上方高位置の交錯個所で検出することができ、また、1つの検出物体を上下2個所で検出する場合には、それぞれ交錯個所を通過する検出物体の表面形態の状況が変わることが予測されるので、微弱な反射光による不動作の確率は極小となり、手押し車、寝台、人物等の高低、形態の変移にかかわらず検出可能となり、叙上の目的を達成することができるとともに、天井埋込型として通路の真上に設置し、人等の通過を検出することにより、自動ドアー又は警報器として極めて利用分野の広いものであることが認められる。

以上認定の事実に基づき、本願第1発明と第1引用例記載の技術とを対比考察するに、本願第1発明の要旨にいう「送光器」、「光束」、「受光器の光の進入経路の延長路」及び「交差部」は、第1引用例記載の技術にいう「発光器3」、「発光光芒a」、「受光光芒b」及び「交錯個所c」にそれぞれ相当するものということができるから、本願第1発明の要旨の用語によつて表現すると、本願第1発明と第1引用例記載の技術とは、通路の天井の下方において、送光器から出た光束と受光器の光の進入経路とが、立つた状態の大人の身体の一部において交差するように、通路の上方に送光器と受光器とを対にして設置し、送光器から出た光束と受光器の光の進入経路の延長路とが交差する該交差部に通過する大人の身体の一部が来ると、送光器と受光器間に光のループが形成されるようにし、これを信号として取り出す点において一致し、(1)送光器から出た光束と受光器の光の進入経路の延長路とが交差する交差部に関し、本願第1発明は、交差部が1つで、それを大人の肩部から頭部の範囲に形成するのに対し、第1引用例記載の技術は、交差部が上下2つで、そのうちの上の交差部を大人の身体の一部に形成するものであること、(2)送光器と受光器の対の設置に関し、本願第1発明は、複数対横に並べて設置するのに対し、第1引用例記載の技術は、1つだけ設置するものであること、(3)対象とする技術分野に関し、本願第1発明は、取り出した信号をカウントする通過人数の計数方法であるのに対し、第1引用例記載の技術は、取り出した信号でリレーを駆動させるようにした光継電器であることにおいて相違するものと認められる。そこで、右の相違点について検討すると、(1)本願第1発明は、大人のみを正確に計数することを目的とするものであるところ、従来方法では、大人のみを計数して、子供、手荷物及び手押し車等を計数しないようにするためには、赤外線の照射強度を一定に保つことが困難であるという欠点があつたので、この欠点を解消するために、交差部を大人の肩部から頭部の範囲に形成するという構成を採用したものであり、他方、第1引用例記載の技術は、検出物体の大小あるいは表面の状態による不動作の原因をなくし、確実に検出することを目的として、交差部を上下2個所に形成する構成を採用し、これにより、大人等大形態の検出物体は上方の交差部で、子供及び手押し車等小形態の検出物体は下方の交差部でそれぞれ検出するようにしたものであることは、前認定のとおりであつて、第1引用例には、大人等大形態の検出物体を上方の交差部で検出するという技術事項がそれ自体1つの独立した技術的思想として開示されているものということができるから、当業者であれば、第1引用例記載の右技術事項に基づいて本願第1発明の前記交差部の構成に容易に想到し得るものというべきであり、また、(2)前認定のとおり、本願第1発明は、百貨店等の混雑する広幅の出入口又は通路においても、そこを通過する人数を正確に計数することを目的として、送光器と受光器を複数対横に並べて設置する構成を採用したものであるところ、第1引用例には、右構成を示唆するような技術事項の開示はないが、成立に争いのない甲第4号証(第2引用例)によれば、第2引用例は、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された公開特許公報であつて(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、第2引用例記載の技術は、交通情報計測方法及び装置、特に、片側に複数車線、例えば、2車線を有する道路において、1台の車両の通行によつて誤つて2台と判定しないようにした交通情報計測方法及び装置に関するものであるところ、2車線の道路を走行する車両を検知するために、車線ごとに車両検出器がそれぞれ設置されている場合に、車両が車線を整然と走行する場合は問題ないが、追越しあるいはその他の原因で、相隣り合う車線の両方をまたいで、すなわち、車線境界線上を走行するとき、特に、大型車両が走行するとき、2つの車線にそれぞれ設置された車両検知器から出力信号が生じ、それゆえ、車両検知器のそれぞれの出力を取り出して、交通量、時間占有率などの交通情報を算出するときは、1台の車両が走行したにもかかわらず、2台の車両として取り扱われて交通情報が算出され、この誤差が集積すると、実際の交通流を把握することができなくなるので、異なる車線を1台の車両が通過することによつて生じる車両検知器の二重検知の防止を目的として、異なる車線のそれぞれに設置された車両検知器の出力信号の相互関係を時間的に監視するための構成を採用し、これにより、実際の交通流を確実に反映した交通管制を行うことができるという効果を奏するものであることが認められ、右認定の事実によると、第2引用例記載の技術は、車両は、追越し等の場合を除き、通常車線内を走行するものであるということを措定したうえ、車両検知器は、道路が一車線の場合は1個、道路が複数車線の場合は複数個設置されるということを前提とするものであつて、右技術事項は、検出領域が幅広く、1つの検出装置では全領域の検出ができない場合は、複数個の検出装置を並べて全領域の検出を行うということを意味し、このようなことは周知であると認められるから、当業者であれば、右の周知の技術事項に基づいて本願第1発明の前記構成に容易に想到することができるものというべきであり、(3)本願第1発明は、取り出した信号をカウントする通過人数の計数方法であるところ、第1引用例には右技術事項の開示はないが、前掲甲第4号証(第2引用例)によれば、第2引用例には、車両検知器が車両を検知したときに検知信号を出力し、これをカウントして走行車両を計数する技術事項の開示があることが認められ、右認定の事実によると、検出装置によつて検出した信号をカウントして検出した対象の数を計算するようなことは周知であると認められ、したがつて、本願第1発明のように取り出した信号をカウントして通過人数を計数するか、第1引用例記載の技術のように取り出した信号をリレーを駆動させるのに用いるかは、当業者が適宜選択し得る技術事項であるというべきであるから、当業者であれば、右の周知の技術事項に基づいて本願第1発明の右構成に容易に想到し得るものというべきである。以上によれば、本願第1発明は、第1引用例及び第2引用例記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるのが相当である。この点に関して、原告は、第1引用例記載の技術は、計数を目的とすることなく、専ら物体の通過を感知することを目的として、1個の受光器と2個の発光器を組み合わせ、光芒の交錯個所を上下2個所に形成することにより、通過物体の高低、大小のいかんを問わず無差別にこれを検出するものであるのに対し、本願第1発明は、ある範囲の通過人数の計数を目的として、一対の受光器と発光器を組み合わせ、光芒の交錯個所を立つた状態の大人の肩部から頭部までの範囲の高さに形成することにより、通過物体のうち、子供、手荷物及び手押し車等を除外し、専ら一定の範囲の高さの通過物体のみを選択的に検出するものであつて、両者は、その目的の相違からして構成及び効果において相違し、その技術的思想を異にするものであるのに、本件審決は、右の相違点を看過し、右の相違点について判断を遺脱した違法がある旨主張するので、審案するに、前説示によれば、第1引用例記載の技術は、原告の主張するように、物体の通過を感知することを目的として、1個の受光器と2個の発光器を組み合わせ、光芒の交錯個所を上下2個所に形成することにより、通過物体の高低、大小のいかんを問わず無差別にこれを検出するものということができるが、第1引用例には、前説示のとおり大人等大形態の検出物体を上方の交差部で検出するという技術事項がそれ自体1つの独立した技術的思想として開示されており、しかも、検出した信号をカウントして検出した対象の数を計算するようなことは周知の技術事項であるから、当業者であれば、第1引用例に開示された右技術事項と右の周知の技術事項に基づいて本願第1発明の右構成に容易に想到することができるものというべきであつて、結局、原告主張の点は、本件審決の結論に影響を及ぼすべき事項ということはできず、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、複数車線を走行する車両の計数器の分野における技術と本願第1発明とでは、技術を適用する場の状況を異にし、したがつてまた、技術的思想も相違するものであつて、1個の通路に複数個の計数器を設けるという技術的思想を全く欠如している第2引用例記載の技術から1個の通路に複数個の計数器を設けるという本願第1発明に想到することは、当業者であつても、容易になし得ることではないのに、本件審決は、右相違点を看過して、送光器と受光器とを一対として、これを複数対横に並べて設置し、広幅の通路又は出入口においても通過人数を計数し得るようにした本願第1発明の構成は、格別の創意工夫を要したものとは認められないとの誤つた認定をした違法がある旨主張するところ、第2引用例記載の技術は、前認定のとおりのものであるが、第2引用例記載の車両検知器は、道路が一車線の場合は1個、道路が複数車線の場合は複数個設置されるということを前提とするものであつて、右技術事項は、検出領域が幅広く、1つの検出装置では全領域の検出ができない場合は、複数個の検出装置を並べて全領域の検出を行うということを意味し、このようなことが周知であることは、前説示のとおりであつて、当業者であれば、右の周知の技術事項に基づいて本願第1発明の右構成に容易に想到することができるものというべきであるから、たとい、第1引用例記載の技術と本願第1発明との間に、原告の主張するような、技術を適用する場の状況を異にする等の相違があるとしても、そのことは、右判断を左右するものというを得ず、したがつて、原告の右主張も、採用するに由ないものといわざるを得ない。

2  次に、原告は、本件審決は、本願第2発明について審理するまでもなく、本願発明の特許出願は拒絶すべきものとした点において理由不備の違法がある旨主張するので、以下右主張について検討することとする。特許法第38条本文は、特許出願は発明ごとにしなければならない旨規定して、これを特許出願の原則とし、また、同条ただし書は、2以上の発明であつても、特許請求の範囲に記載される1の発明(特定発明)に対し同条各号に掲げる関係を有する発明については、特定発明と同一の願書で特許出願をすることができる旨規定し、右の原則に対する例外を設けているところ、右のように特許出願は原則として発明ごとにすべきものとしているのは、そうすることが専ら審査事務及び登録事務等において便利であるという、手続上の便宜に基づくものであり、したがつて、右の例外は、同条ただし書に規定するような関係を有する発明については、右の原則によらない方がかえつて手続上便宜であるとして、2以上の発明を1つの願書にまとめて特許出願(いわゆる併合出願)をすることを許容する趣旨に出たものと解される。ところで、いま、併合出願を2以上の発明について願書を同一にする1個の特許出願と解するならば、手続上便宜であることが明らかであるのに対し、これを2以上の発明について願書を同一にする複数の特許出願と解するならば、その特許出願のうち、1つの特許出願については特許査定がされ、その余の特許出願については拒絶査定がされるというような事態が生じ、このような場合には、複数の特許出願は、それ以後手続上別のものとして取り扱わざるを得ないことになつて、手続を複雑化し、便宜であるとはいえず、右の例外を設けた趣旨が没却されることになることは看やすい道理というべく、それゆえにこそ、特許法も、右のような場合を予定した手続規定を何ら設けなかつたものと理解することができる。叙上の点にかんがみると、特許法第38条ただし書の規定は、各発明ごとに特許出願をすることができる旨定めるものではなく、2以上の発明について願書を同一にする1個の特許出願をすることができる旨定めたものと解するのが相当である。そうであるとすれば、特許法第38条ただし書の規定に基づく特許出願は、1つの発明について拒絶理由があるときには、その余の発明について拒絶理由があるか否かにかかわらず、同法第49条の規定により拒絶すべきものというべきところ、本件審決は、右と同旨の判断をしたものと解されるから、その判断は相当であり、本件審決に原告主張のような、違法の点はないものといわざるを得ない。この点に関して、原告は、特許法第123条第1項柱書き後段及び第185条の規定を援用して、同規定との整合性について主張するが、右規定は、特許権成立後の取扱いに関して特に定めるものであつて、出願中の取扱いに関するものではなく、また、右規定の趣旨とするところに照らしても、右規定の存することが前記判断を妨げるものとは解されず、したがつて、原告の右主張は、採用の限りでない。また、原告は、特許法第38条ただし書の規定による特許出願は、2以上の発明について願書を同一にする複数の特許出願である旨るる主張するところであるが、原告の右主張は、独自の見解であるといわざるを得ず、採用することができない。

(結語)

3 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(武居二郎 高山晨 清永利亮)

〈以下省略〉

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